電通の企業イメージを失墜させたもう一つの決定的な要因は、労働環境をめぐる悲劇的な事件の連鎖と、国家的イベントを食い物にした刑事告発の歴史です。
1991年に起きた入社2年目の若手男性社員の過労自殺は、最高裁判所で会社側の安全配慮義務違反が明確に認められ、日本の労働法判例において「過労死」の法的責任を確立させる契機となりました。しかし、その痛烈な教訓が生かされることはなく、2015年12月、新入社員だった高橋まつりさんが過酷な長時間労働とパワハラに追い詰められ自死するという痛ましい事件が再び発生します。三田労働基準監督署によって過労死(労災)と認定され、2016年秋には東京労働局による本社への異例の強制捜査(家宅捜索)へと発展。2017年には労働基準法違反で有罪判決を受け、当時の石井直社長が引責辞任に追い込まれました。この一連の報道によって、世間には「社員を消耗品のように扱う過酷な体育会系組織」という強烈なブラック企業イメージが刻み込まれました。
さらに追い打ちをかけたのが、東京2020オリンピック・パラリンピックを巡る汚職および談合事件です。大会組織委員会の元理事への贈収賄事件に続き、テスト大会関連業務の入札を巡る独占禁止法違反(不当な取引制限)容疑で、東京地検特捜部と公正取引委員会が強制捜査に着手。電通の元幹部らが逮捕・起訴され、有罪判決を受ける事態へと発展しました。この結果、各省庁や全国の自治体から指名停止処分を受けるなど、社会的信用は完全に地に堕ちることとなりました。