座間での事件を機に、行政や支援団体も大きく舵を切らざるを得なくなった。厚生労働省はSNSを活用した自殺防止相談事業への財政支援を強化し、民間の相談窓口もテキストベースの対話システム導入を急速に進めた。電話による相談をためらうデジタルネイティブ世代にとって、文字を通じたコミュニケーションは心理的ハードルを大幅に下げる有効な手段と見なされたからである。
しかし、現場の負担と課題は依然として山積している。長年にわたり命の防波堤となってきた「いのちの電話」をはじめとする各窓口には、連日膨大な数のアクセスが集中し、応答率の維持に苦慮する状況が続いている。さらに、画面越しの短いテキストのやり取りだけで緊急性の高さを正確に見極め、即座に警察や医療機関などの実社会のリソースへと連携させることには構造的な困難がつきまとう。デジタル空間に溢れるSOSをどのように拾い上げ、いかにして現実の確固たる支援へと橋渡しするか。その運用モデルの確立は今もなお重い課題として残されている。