大河ドラマ『真田丸』において、視聴者の脳裏に最も鮮烈に刻み込まれたフレーズの一つが、昌幸が家臣や息子たちに向けて言い放つ「おのおの、抜かりなく」です。このセリフは単なる決め台詞にとどまらず、緊迫した局面を一瞬で引き締め、真田家の結束と昌幸の底知れぬ自信を象徴する合言葉として定着しました。
番組関係者の証言や当時のインタビューによると、この名フレーズは脚本を手がけた三谷幸喜が草刈正雄の持つ独特のダンディズムと飄々とした軽妙さを最大限に引き出すために配置したものでした。草刈正雄自身、1985年のNHK新大型時代劇『真田太平記』で主人公・真田日本一の兵こと真田幸村(信繁)役を演じており、31年の時を経て「父・昌幸」を演じるという宿命的なキャスティングが実現していました。現場で草刈が見せた緩急自在の芝居に対し、三谷幸喜は「昌幸という男のチャーミングさと恐ろしさをこれ以上ない形で具現化してくれた」と絶賛のコメントを残しています。
また、強大な勢力に囲まれた絶体絶命の局面で放たれた「大博打の始まりじゃ!」という叫びは、戦国小名としての悲壮感を一変させ、観客を冒険活劇の高揚感へと巻き込みました。策謀を巡らせる冷徹さと、家族を愛する愛嬌に満ちた父親の顔が同居する唯一無二の昌幸像は、綿密な計算と役者の魂が融合した結果生まれた奇跡的な造形だったといえます。