両国の精神的バックボーンを語る上で最も重要な違いが「宗教」です。この違いを知ることで、人々の生活様式や行動規範の差を論理的に理解できます。
インドはヒンドゥー教の発祥地であり、人口の約8割がヒンドゥー教徒です。カースト制度(法的には撤廃されたものの生活観念として残存)や菜食主義(ベジタリアン文化)、牛を神聖視して牛肉を口にしない習慣などが生活の隅々まで行き渡っています。日々の祈り(プージャ)やガンジス川での沐浴に象徴されるように、精神世界の根底にはヴェーダの伝統が息づいています。
対照的に、インドネシアは国民の87%以上がイスラム教徒(ムスリム)であり、その総数は2億4000万人を超えます。中東諸国を上回り、単一国家としては世界最大のイスラム人口を抱える国家です。街中にはモスクから流れるアザーンが響き渡り、ハラール食の徹底やラマダン(断食月)の遵守が社会通念となっています。ただし、中東のような厳格主義一辺倒ではなく、東南アジア特有の穏健で開放的なイスラム解釈(パンチャシラ=建国5原則に基づく信教の自由)が保たれているのが大きな特徴です。
なぜインドネシアの「バリ島」だけヒンドゥー教なのか?インドとの違い
ここで多くの日本人が抱く疑問が、「インドネシアの超有名リゾート・バリ島はヒンドゥー教ではないか?」という点です。
かつてインドネシア一帯は、5世紀から15世紀にかけて栄えたシュリーヴィジャヤ王国やマジャパヒト王国など、インド商人を通じて伝来したヒンドゥー教や仏教を国教とする時代が長く続きました。しかし15〜16世紀にかけてイスラム教が急速に浸透すると、マジャパヒト王国の貴族、僧侶、芸術家たちがイスラム化の波から逃れるために一斉にバリ島へと移住した歴史があります。
この結果、バリ島では現在も住民の8割以上がヒンドゥー教を信仰していますが、インド本国のヒンドゥー教とバリ・ヒンドゥー(Agama Hindu Dharma)は儀礼も思想も大きく異なります。
- 土着信仰との融合:バリ・ヒンドゥーは、インドの教義にバリ島古来のアニミズム(精霊信仰)や祖先崇拝が深く融合しています。
- 食文化の違い:インド本国では豚肉も牛肉も敬遠されますが、バリ島では豚肉料理(名物の豚の丸焼き「バビグリン」など)がご馳走として日常的に食されます。
- 社会構造:インドのような厳格な不可触民(ダリット)制度や排他的な身分差別はなく、穏やかで共生を重んじるコミュニティ(バンジャール)が地域自治を支えています。