では、一体なぜ脳の統合機能は途切れてしまうのでしょうか。その直接的な原因は「脳の疲労」と「神経の順応(抑制)」にあります。
人間の視覚情報処理は、眼球の網膜から視神経を経由して大脳皮質の一次視覚野へ送られ、さらに側頭葉などの高次視覚野でパターン認識が行われます。特定の文字や図形を凝視し続けると、そのパターンの特徴(線の方位や交差関係)に反応する特定の神経細胞(ニューロン)ばかりが過剰に連続発火します。
神経細胞は同じ刺激を受け続けると、エネルギー消費を抑えるために刺激に対する反応性を自発的に低下させます。これが「神経の順応」と呼ばれる生理的現象です。文字の全体パターンを認識していた高次の神経回路が疲弊して抑制される一方で、個々の線の要素を捉える低次の回路は働き続けるため、「線や点の集まりは見えているのに、漢字全体としての意味が脳に入ってこない」という解離状態が発生します。
認知心理学における実験研究(漢字の凝視時間と再認遅延の測定)でも、複雑な文字ほど注視開始からわずか15秒〜30秒程度で認識エラーや違和感の発生率が急激に跳ね上がることが確認されています。