『カインとアベル』が単なる企業ドラマにとどまらず、現在も語り継がれる傑作と評される理由は、家族社会学や臨床心理学の観点から見ても極めて正確に「機能不全家族の病理」を描き出していた点にあります。
父親である高田貴行が息子たちに接する態度は、心理学でいう「条件付きの肯定(Conditional Positive Regard)」そのものです。「優秀な成果を上げた息子だけを愛し、失敗した息子は冷遇する」というルールを徹底した結果、長男の隆一は「失敗すれば捨てられる」という見捨てられ不安に怯え、次男の優は「何をやっても認められない」という慢性的な自己無価値感に苦しむことになりました。
この家庭内には、個々の人格を尊重する「心理的バウンダリー(境界線)」が存在していませんでした。兄弟はお互いを実の肉親として見るのではなく、父親の愛情という有限の資源を奪い合うライバルとして認識せざるを得ない環境に追い込まれていたのです。劇中で優がスーツを着こなし、冷酷な目で兄を見下ろすようになる変化は、長年虐げられてきた「スケープゴート(身代わり)」が、父親の価値観を内面化して「支配者」へと変貌する過程を見事に体現していました。