第三部で明かされる先生の遺書の真相は、人間が持つ恐ろしいエゴイズムの告白です。先生はお嬢さんへの恋心をKに先を越された焦りから、Kの苦悩を逆手にとって精神的に追い詰めました。そしてKが動けない隙を見計らい、Kに一言も告げずに奥さんへお嬢さんとの結婚を直談判したのです。
婚約が成立したことを知らされたKは、取り乱すこともなく「おめでとう」と先生を祝福しました。その静かな寛容さこそが、先生にとって生涯消えない呪いとなります。
Kの死後、先生はお嬢さんと結婚し、一見平穏な生活を手に入れます。しかし、先生の心は「友を死に追いやった裏切り者」という激しい罪悪感に苛まれ続けます。かつて自分を欺いた叔父を軽蔑していた先生は、自身もまた私欲のために親友を裏切る「汚れた人間」であったという事実に打ちのめされたのです。
妻となったお嬢さんにすら過去の真相を打ち明けることができず、先生は純白な妻の前に立つたびに自らの罪を思い知らされます。結果として先生は社会との関係を断ち切り、生きたまま自らに罰を科すような孤独な幽閉生活を送ることになりました。