漢字の成り立ちや標準語の意味だけを知っていると、地方でこの言葉を耳にした際に激しい衝撃を受けることになります。方言における嬲るの意味は、関西(大阪・京都・兵庫)、中国、四国、九州の一部、さらには東北地方の一部地域において、悪意の全くない「触る」「手でいじる」「手入れをする」という意味で定着しています。
地方出身者が何気なく発する以下のフレーズは、地域住民にとっては極めて無害な日常会話です。
「機械が壊れるから、勝手に嬲ったらあかん(いじっちゃダメ)」
「髪の毛ばっかり嬲ってんと、はよ勉強しなさい(触ってないで)」
「休みの日は庭の土を嬲るのが一番の楽しみや(手入れするのが)」
筆者が取材した文化摩擦の一例として、東京から大阪の製造現場に配属された新入社員が、上司から「その基板、素手で嬲るなよ」と指示され、「自分がいじめやハラスメントを指示されたのか」と深刻に怯えてしまったという事例が報告されています。文脈を知らない人にとっては「痛めつける」と聞こえても、方言話者にとっては単に「Touch(触れる)」や「Fiddle with(いじくる)」と言っているに過ぎません。この決定的な認知ギャップこそが、ネット上で定期的に「嬲る」の話題がバズる最大の起爆剤となっています。