数ある未解決問題の中で、知名度・挑戦者数において双璧をなすのが「リーマン予想」と「コラッツ予想」です。アプローチの手法も数学的深さも対照的な2つの難問について、現場の研究動向を整理します。
リーマン予想の証明:量子物理学との奇妙な共鳴と現在の到達点
1859年にドイツの天才ベルンハルト・リーマンが提示した「リーマン予想」は、数学における最も基本的な構成要素である素数の並び順を解明するための鍵です。リーマンのゼータ関数において、「自明でないゼロ点の実数部はすべて1/2の直線上にある」という仮説ですが、この証明には名だたる数学者が挑み、挫折してきました。
1970年代、物理学者フリーマン・ダイソンと数学者ヒュー・モンゴメリーの対話から、「ゼータ関数のゼロ点の間隔の分布」が「ウランなど重い原子核のエネルギー準位の間隔」と統計学的に完全に一致するという驚異的な事実が判明しました。これ以降、純粋数学の枠組みだけでなく、量子カオスやランダム行列理論を用いた物理学的アプローチが本格化しました。
近年では著名な数学者が証明のプレプリント(査読前論文)を発表しては不備が見つかる事例が繰り返されています。2018年にはフィールズ賞受賞者である故マイケル・アティヤ氏が簡易な証明を試みたものの、学界の査読基準を満たすには至りませんでした。スーパーコンピュータによる数値検証は進み、ゼロ点の存在位置が10兆個以上確かめられても例外は1つも見つかっていません。しかし、数学において「10兆個で成り立った」ことは「無限に成り立つ」ことの証明にはならず、決定的なブレークスルーは依然として待望されています。
コラッツ予想:小学生でも解けそうに見える「最も危険な罠」
一方、未解決問題の中で最も親しみやすく、かつ恐ろしいと恐れられるのが「コラッツ予想(3n+1問題)」です。
【コラッツ予想の単純なルール】 任意の正の整数を選び、
・偶数なら2で割る
・奇数なら3を掛けて1を足す
この操作を繰り返すと、どんな数字からスタートしても最終的に必ず「1」に到達するのではないか?
例えば「7」から始めると、7 → 22 → 11 → 34 → 17 → 52 → 26 → 13 → 40 → 20 → 10 → 5 → 16 → 8 → 4 → 2 → 1 となり、16回のステップで1に辿り着きます。コンピュータを用いた計算では、2の68乗(約295京)を超える数まで全て1に到達することが確認されています。
現代最高の数学者の一人と称されるテレンス・タオ(Terence Tao)教授は2019年、「コラッツの数列は、ほぼすべての数において、いくらでも小さな値に到達する」という極めて強力な確率論的偏微分方程式を用いた論文を発表しました。この成果により「ほぼ証明に近づいた」と騒がれましたが、タオ教授自身が「完全な解決にはまだ何十年もの新しい数学的道具が必要だ」と公言している通り、最後の一線を越えることはできていません。2021年には日本のIT企業が1億2000万円の民間懸賞金を設定したことでも話題を呼びましたが、現時点でも厳密な証明は達成されていません。