タイ国民は誰一人として、首都を「バンコク」とは呼びません。現地での日常会話ではクルンテープマハナコーン、あるいはさらに縮めて「クルンテープ」と呼ぶのが一般的です。そして、この都市にはギネス世界記録にも認定されている驚くべき秘密が存在します。それがクルンテープ正式名称全文の圧倒的な長さです。
タイの子供たちも学校の音楽や授業でリズムに合わせて暗記するという、その全貌をバンコク正式名称カタカナ表記で確認してみましょう。
「クルンテープ・マハーナコーン・アモーンラッタナコーシン・マヒンタラーユッタヤー・マハーディロック・ポップ・ノッパラット・ラーチャタニーブリーロム・ウドムラーチャニウェートマハーサターン・アモーンピマーン・アワターンサティット・サッカタッティヤウィサヌカムプラシット」
タイ語の文字数にして188文字、スペースを挟んで16の言葉が連なるこの名称には、都市としての機能を超えた荘厳な意味が込められています。日本語に直訳すると、次のような壮大な祝詞(のりと)になります。
「インドラ神がサッカ神に命じてウィサヌカム神に造らせた、神が権現として住まう不死の宮殿であり、九つの宝玉に彩られた喜ばしい王宮が立ち並び、インドラ神の不滅の宝玉を戴く、偉大なる天使の都」
これほどまでにバンコク正式名称長い理由は、1782年にチャオプラヤー川東岸へ遷都し、現在のラタナコーシン朝(チャクリー王朝)を開いた始祖ラーマ1世の王権強化戦略にあります。ビルマ軍の侵略によって灰燼に帰した前王朝アユタヤの悲劇を乗り越え、「神々に守護された不滅の都」としての正統性と仏教的宇宙観を都市名そのものに刻み込む必要があったからです。単なる行政上の地名ではなく、国家の安寧を祈念する詩歌そのものが都市の名として現代まで受け継がれています。