調理時間を少しでも短縮しようと「早炊きモード」を選択するユーザーが後を絶ちませんが、製菓において早炊きを使用するのは極めてハイリスクです。炊飯器ケーキにおける早炊きと普通炊きの違いは、単なる調理時間の長短にとどまらず、熱の伝わり方と対流の安定性に決定的な差が存在します。
早炊きモードは、米に急速に吸水させて一気に強火で沸騰させるため、加熱時間が約20〜30分と短く設定されています。米と水であれば激しい対流が起きて均一に熱が行き渡りますが、小麦粉や卵が混ざった高粘度のケーキ生地は自然対流が起きません。その結果、熱源に近い底面だけが急激に熱せられ、厚みのある中心部まで熱が届く前にタイマーが切れてしまいます。
一方の普通炊きは、予熱・加熱・蒸らしのプロセスを45〜60分かけて段階的に進めます。生地全体をじっくりと均等に温め、中心部の温度をベーキングパウダーの膨張と小麦タンパクの凝固に適した85℃以上に長時間キープできるため、焼きムラが大幅に減少します。大手レシピサービスで殿堂入りを果たす人気レシピのほぼ全てが「普通炊き」を指定している背景には、こうした物理的な根拠があります。