「漢方薬は天然由来だから副作用がない」という認識は完全な誤謬です。抑肝散を服用する上で最も警戒しなければならないのが、構成生薬の一つである甘草(カンゾウ)に起因する偽アルドステロン症です。 甘草の主成分であるグリチルリチン酸は、腎臓の遠位尿細管においてコルチゾールをコルチゾンへ変換する酵素(11β-HSD2)を阻害します。その結果、過剰なコルチゾールがミネラルコルチコイド受容体を刺激し、体内にナトリウムと水が貯留する一方、カリウムが尿中へ過剰排泄されます。
特に注意すべきは飲み合わせ(併用禁忌・併用注意)です。風邪薬(葛根湯など)、胃腸薬、あるいは腰痛やこむら返りで処方される「芍薬甘草湯」にも大量の甘草が含まれています。これらを安易に多剤併用すると、1日のグリチルリチン許容量を容易に突破し、偽アルドステロン症の発症率は跳ね上がります。 加えて、利尿薬(フロセミドやヒドロクロロチアジド)を服用中の高齢者は低カリウム血症が急速に悪化しやすいため、主治医や薬剤師による事前の服薬チェックが必須です。極めて稀ではあるものの、発熱や息切れを伴う間質性肺炎や、AST・ALTの急激な上昇を伴う肝機能障害も重大な副作用として添付文書に明記されています。