幼児科を語る上で欠かせない最大の論点が、使用する楽器と育成される能力の本質です。幼児科の教室にはアコースティックピアノではなく、最新のデジタル電子オルガンであるエレクトーンがずらりと並んでいます。これに対し、「ピアノを習わせたいのにエレクトーンのフニャフニャした鍵盤で練習させて指の形が悪くならないか」という懸念を抱く保護者は後を絶ちません。
しかし、ヤマハの指導法には明確な神経科学的・教育的な根拠が存在します。骨格や指の筋肉が未発達な4歳〜5歳の子どもにとって、アコースティックピアノの重い鍵盤を無理に打鍵させることは、手首の緊張や指の変な癖を招くリスクを孕んでいます。打鍵の軽さに関係なく音が出るエレクトーンを使用することで、身体的な負荷をかけずに「音楽を奏でる喜び」に集中させる設計になっているのです。
さらに、幼児科が採用する教授法は「きく・うたう・ひく・よむ」という厳密な順序に基づいています。
- きく:講師の演奏や高音質なオーケストラ伴奏を耳で全身で浴びる。
- うたう:歌詞唱で楽曲のイメージを膨らませた後、ドレミの階名(ドレミ唱・ソルフェージュ)で音程を身体に刻み込む。
- ひく:すでに頭の中で鳴っている音階を、鍵盤の上に指を乗せて音として再現する。
- よむ:実際に弾いて体得したメロディを、最後に楽譜の音符と結びつけて認識する。
この徹底した「耳ファースト」のアプローチによって培われるのが、強固な音感です。日常会話の中で聴こえる家電の通知音やサイレン、幼稚園で習った童謡を、即座に「ミソラ〜」と階名で認識し、自宅の鍵盤で両手を使って探り弾き(耳コピ演奏)を始める子どもが続出するのは、この教育プロセスの賜物です。楽譜の暗号解読から入る従来のピアノ教育では数年かかる「聴こえた音をダイレクトに鍵盤に移す能力」が、幼児科の2年間で自然と育まれていきます。