緑色であるはずの草むらに、突如として溶け込む茶色のバッタが現れる理由は、昆虫が持つ驚くべき環境応答システムに起因しています。多くの人が「草が枯れたから大人のバッタが茶色に変色した」と誤解しがちですが、昆虫生理学における事実は異なります。成虫になったバッタが、カメレオンのように数時間や数日で劇的に緑から茶色へ色を変えることは基本的にありません。
色彩を決定づける最大の要因は、幼虫期に過ごした周囲の環境要因です。野外調査や飼育実験のデータによれば、主に以下の3つの要素が複雑に絡み合い、脱皮のタイミングで体色が固定されます。
第1に「湿度と温度」です。空気が乾燥し、気温が高い環境下で育った幼虫は、体内のホルモンバランス(主に幼若ホルモンや神経ペプチド)が変化し、メラニン色素の沈着が促進されて褐色型になりやすいことが判明しています。逆に湿度が高く瑞々しい環境では、胆汁色素などの働きによって鮮やかな緑色型が維持されます。
第2に「視覚的な背景色」です。幼虫の複眼が捉える周囲の色彩が緑優勢か、それとも枯れ草や土の褐色優勢かによって、脱皮後の色彩が適応的に誘導されます。これはバッタの保護色と生息環境が密接に連動している証拠であり、天敵であるモズやスズメなどの野鳥から身を隠すための極めて合理的な防御反応です。
そして第3が「季節の進行による淘汰」です。これが秋に茶色のバッタが増える真相の核心と言えます。初夏には緑色のバッタも茶色のバッタも一定の比率で誕生していますが、草木が青々としている夏場は茶色の個体が目立ち、鳥に捕食されやすくなります。ところが秋が深まり草が枯れ始めると形勢は逆転します。緑色の個体が枯草の中で目立って淘汰される一方、茶色の個体は見事に背景と同化して生き残るため、秋の終盤には「茶色のバッタばかりが目につく」という結果をもたらします。