藤井風という類まれなアーティストを語る上で欠かせないのが、父・三男氏が実践した独自の家庭教育方針です。一般的にクラシック界や音楽エリートの家庭では、幼少期から厳格な指導者をつけて1日何時間も反復練習を強いるケースが散見されますが、三男氏の指導アプローチはそれとは対極に位置していました。
「父自身は弾けない」からこそ生まれた独自のピアノ指導法
驚くべきことに、父・三男氏自身はピアノを専門的に演奏することはできませんでした。それにもかかわらず、風が3歳の頃からピアノの前に座らせ、隣で徹底的に音の響きを聴かせ続けました。三男氏が風に授けた最大の教えは、「楽譜を読む前に、まず耳で聴いた音をそのまま鍵盤で再現する(耳コピ)」という身体感覚の養成でした。
実家のミッチャムや自宅では、ショパンやベートーヴェンといった西洋クラシックから、ビル・エヴァンスなどのモダンジャズ、マイケル・ジャクソンやカーペンターズなどの洋楽ポップス、さらには昭和歌謡や演歌に至るまで、ありとあらゆるジャンルの楽曲が朝から晩まで流れていました。三男氏は「この曲のベースラインはどう動いた?」「このコードの響きはどう感じる?」と風に問いかけ、ジャンルの垣根を一切作らずに音楽の骨格を直感で捉える能力を育んでいったと語られています。
地方の町にいながらバイリンガルを育てた英語教育
岡山県のローカルな環境で育ちながら、海外メディアのインタビューを流暢な英語でこなし、流れるような英語詞を作詞できる背景にも、父親の先見性がありました。三男氏は風が幼い頃から「これからは世界と繋がる時代になる。英語は絶対に話せなければならない」と確信し、日常会話の中に自然な形で英語を取り入れていました。
教材を機械的に解かせるような詰め込み教育ではなく、洋楽の歌詞を耳で覚えさせ、英語特有のリズムや発音のイントネーションを遊び感覚で体得させる手法を採用していました。父自身が英語の必要性を強く認識し、息子に対して「外の世界」へ目を向けさせ続けたことが、現在のグローバルな活動の基盤となっています。