平井堅の歌唱シーンを注視すると、一般的なポップス歌手とは明らかに異なるマイクワークが確認できます。静謐なAメロやBメロでは口元から数センチの位置を保ちつつ、感情が奔流のように溢れ出すサビの高音部やロングトーンに差しかかると、マイクはスッと下方へ引き下げられ、胸元、時にはみぞおち付近まで遠ざけられます。
この平井堅マイク遠い理由の核心にあるのは、物理的な音響現象である「近接効果」の抑制と、アンプ・送信機への過大入力防止です。ボーカルマイクは口元に近づけるほど低音域が強調される特性を持ちますが、平井堅のように声の密度が極めて濃く、倍音成分を豊かに含んだ声質の場合、近距離で大声量を注ぎ込むと音が濁り、スピーカー側で歪み(クリップ)が生じてしまいます。
さらに注目すべきは平井堅マイクの持ち方です。彼はマイクのグリル(網部分)を覆うような握り方を決してせず、ボディの重心部分を親指、人差し指、中指で包み込むように繊細にホールドします。カプセルの空気穴を塞ぐとマイク本来の指向性が失われ、音質が劇的に劣化することを知り尽くしているからこその所作です。口元に対して水平ではなく、やや斜め45度下方から狙う平井堅マイク位置は、強烈な呼気が直接マイクの振動板に当たって発生するポップノイズ(吹かれ)を自然に逃がす役割も果たしています。