肉吸いという料理が誕生したのは、大阪・千日前に店を構える老舗うどん処「千とせ 本店」(1949年・昭和24年創業)のカウンターでした。発祥の立役者となったのは、昭和の吉本新喜劇を牽引した名優、花紀京(はなき きょう)氏です。
昭和40年代の後半、当時のなんば花月に出演していた花紀京氏が、前夜の深酒によるひどい二日酔いを抱えて千とせの暖簾をくぐりました。「腹は減っているが、重いうどんは胃に通らない。しかし旨いだしの効いた肉汁だけはすすりたい」――そう考えた花紀氏が、創業者の先代店主に対して放った「大将、肉うどんのうどん抜きで」という突飛なリクエストこそが、すべての始まりでした。
店主がその注文に応えて牛肉とネギ、そして半熟卵を入れた特製だしを椀に盛って提供したところ、花紀氏は大絶賛。その様子を見ていた他の吉本芸人たちにも口コミで瞬く間に広がっていきました。やがて劇場出番前の芸人たちが「うどん抜き」を連日注文するようになり、店側が正式メニューとして「肉吸い(肉の吸い物)」と名付けたことで、名物料理としての歴史がスタートしたのです。
その後、ダウンタウンや明石家さんま氏といったトップ芸人たちがテレビやラジオのトークで「千とせの肉吸いを食べると売れる」というゲン担ぎのエピソードを語ったことで、ブームは関西ローカルから全国区へと一気に拡大しました。