ヤジに対する価値観は、国や競技カテゴリによっても大きな隔たりがあります。野球の本場である米メジャーリーグ(MLB)には、「ヘックリング(Heckling)」と呼ばれる独自のヤジ文化が根付いています。
MLBのスタンドでは、相手チームのスター選手に対してユーモアを利かせた野次を飛ばすことが一種のエンターテインメントとして親しまれています。例えば、高額年俸に見合わない成績の選手に対して「契約書のサインを返金してこい!」と叫んだり、相手外野手とファンの間で軽妙な掛け合いが生まれ、選手が苦笑しながら手を振り返す光景は日常茶飯事です。しかし、MLBにおいても人種・宗教・性別・家族に関わる差別や中傷は一線を越えた行為とみなされ、発覚した瞬間にセキュリティーによって拘束され、永久追放処分が下される徹底したゼロ・トレランス方式が採用されています。
一方、日本の高校野球(アマチュア野球)では、教育的配慮の観点からグラウンドおよびスタンドからの相手選手に対するヤジが全面的に禁止されています。日本高等学校野球連盟(高野連)は指導者や選手に対し、相手を威嚇・揶揄する発声の禁止を通達しており、かつて少年野球などで定番だった「ヘイヘイピッチャービビってる」といった野次交じりの掛け声さえも、グラウンド上から姿を消しました。高校野球が「教育の一環」である以上、相手への敬意を欠く行為を徹底的に排除する姿勢は、日本のアマチュアスポーツにおける明確な規範となっています。