せっかくの旅行日程が雨予報に重なると失望する旅行者は多いですが、これは山岳観光における典型的な思い込みです。水力発電の拠点として大自然の猛威を制御する黒部ダムは、荒天時こそがその真髄を露わにする場所でもあります。
第一に、黒部ダム雨の日の楽しみ方として際立つのが、水煙と雲霧がダイナミックに渦巻く幽玄の峡谷景観です。晴天時の絵葉書のような美しさとは一線を画し、岩肌を白く煙らせながら黒部川へとなだれ込む雲海は、山水画の世界そのものです。さらに、雨水を集めた観光放水は晴天時以上に重量感を増し、地響きのような爆音とともに放出される水煙の迫力は圧巻のひと言に尽きます。
第二に、充実した屋内拠点の存在です。冷雨に打たれた体を温める「黒部ダムレストハウス」では、名物「黒部ダムカレー」を味わいながらガラス越しにドラマチックなダム景観を眺められます。また、「くろよん記念室」では、世紀の難工事と言われた大町トンネル掘削の破砕帯突破ドキュメント展示をじっくり鑑賞できます。外が荒れているときほど、先人たちが命懸けで自然と対峙した現場の過酷さに思いを馳せる重厚な時間が生まれます。