取締役と執行役員の違いをわかりやすく整理するうえで、避けて通れないのが「会社法における役員の定義」です。会社法第329条および第330条において、株式会社の「役員」とは取締役、会計参与、監査役の3者を指すと明確に定義されています。つまり、法律の世界において「役員」と胸を張って名乗れるのは、株主総会の決議を経て選任され、登記簿謄本に名前が刻まれる取締役たちだけです。
一方で、執行役員の会社法上の位置づけを法文から探そうとしても、その文字はどこにも見当たりません。執行役員とは、1999年にソニーがいち早く導入して以降、日本企業へ急速に普及した「企業が独自に定めた内部呼称」に過ぎないからです。法的な観点から問われれば、執行役員は役員か従業員かという問いに対する正確な答えは「基本的には従業員の最高峰(従業員トップ)」となります。
この2つの役職が現場で著しく混同される背景には、日本の伝統的なメンバーシップ型雇用が生み出した歴史的事情があります。かつての日本企業では、部長職を極めた生え抜き社員が順に取締役に昇格していくため、取締役会が20人〜30人規模に膨張し、実質的な議論が機能不全に陥っていました。そこで「全社経営の意思決定・監督」を行う少数の取締役と、現場でスピーディーに「事業を推進・執行」する執行役員へと機能を切り分けたのが制度の本質です。形骸化した名目上の役員肩書と、実際の法的立場が乖離していることこそが、混同を生み出す元凶となっています。