慎二の対極に位置する安良城ゴンもまた、別のベクトルで深い恐怖と違和感を植え付ける。誰にでも優しく、鍵をかけない部屋で甘い言葉を囁き、距離感を無視して人の懐に入り込む「メンヘラ製造機」。一見すると癒やし系の自由人に映るが、その本質は他人の境界線を踏みにじる無自覚な捕食者に近い。
特に凪がゴンに依存し、自分の人生や時間を溶かしていく過程の描写は恐ろしいほどリアリティがある。相手を肯定しているようでいて、実際は相手の判断能力を奪い、沼に引きずり込む。そこには悪意がないからこそタチが悪い。善意と無防備な笑顔の裏にある無責任さ、そして「誰でもいい」と言わんばかりの愛の安売り。ゴンの甘い沼にハマっていく恐怖を感じた読者から見れば、彼の軽薄な優しさはどこか不気味で異質なものに映る。