ベトナムにおけるサッカーの社会的重要性は、一般的なスポーツの枠組みを遥かに超越しています。ハノイのミーディン国立競技場やホーチミン市内のパブリックビューイングを取材すると、そこには国民統合の象徴としての熱狂が存在します。
代表チームが勝利した夜に巻き起こる現象が「バオ(Bão=嵐)」と呼ばれるストリートパレードです。何万人もの市民が一斉にバイクで街へ繰り出し、金星紅旗(ベトナム国旗)を掲げて夜通し歌い踊る光景は、東南アジア随一のサッカー熱を象徴しています。
一方で、熱狂の裏返しとしてベトナムサッカーファンの反応は極めてシビアです。地元メディア『VnExpress』や『Tuoi Tre』の読者コメント欄、SNS上のサッカートークでは、結果が出ない時期の監督人事や協会幹部に対する辛辣な批判が渦巻きます。トルシエ前監督の解任劇を後押ししたのも、スタジアムに掲げられた痛烈な横断幕とネット世論の爆発でした。
「自分たちはアジアのトップ10に入れるはずだ」というファンの高い期待値と、冷徹な国際基準の戦力差との間で揺れるサポーターの葛藤こそが、ベトナムサッカーを突き動かす巨大なエネルギー源となっています。