日本国内で活発に暗躍する外国諜報員を直接マークしているのが、警視庁公安部および各道府県警警備部に置かれている「外事課」です。担当地域や脅威の性質に応じて分掌されており、警視庁においては外事一課(ロシア・東欧)、外事二課(中国)、外事三課(北朝鮮・中東テロリスト)、外事四課(経済安全保障・先端技術流出対策)といった布陣で防諜任務にあたっています。
米国のCIAと比較すると、公安外事課の守備範囲と制約の大きさが浮き彫りになります。CIAは国外において秘密工作(Covert Action)を行い、時には他国の政権転覆や軍事支援にまで関与する巨大インテリジェンス機関です。自国内での法執行権限を持たない代わりに、海外では法律のグレーゾーンを突いた積極工作を展開します。一方、公安外事課はあくまで「国内法に縛られた司法警察」であり、令状なしの通信傍受や住居侵入は厳格に禁止されています。
さらに現場の捜査員を悩ませているのが、日本に包括的な「スパイ防止法」が存在しないという法制度上の空白です。諸外国では、国家機密を違法に収集しただけで最高刑が死刑や終身刑となる国も少なくありません。しかし日本の場合、特定秘密保護法(指定された防衛・外交機密のみが対象)に該当しない限り、スパイ活動そのものを直接処罰する包括法がありません。
その結果、公安外事課は以下のような別件容疑を地道に積み重ねて摘発に持ち込まざるを得ないのが実態です:
- 外国為替及び外国貿易法(外為法)違反:軍事転用可能な精密機器や先端素材の不正輸出を立件
- 出入国管理及び難民認定法違反:偽装身分での不法入国や資格外活動を適用
- 不正競争防止法違反:民間企業の営業秘密やソースコード窃取を産業スパイ事案として摘発
- 道路交通法・有印私文書偽造違反:スパイが移動に使用する免許証偽造やレンタカー契約の不備を突く
元公安警察関係者からは「CIAなどの世界トップ機関と対峙するには、証拠収集の法的手段も人員規模も圧倒的に不足している」との指摘が長年なされており、水面下の防諜戦は極めて過酷な制約の中で行われています。