石川浩司の代名詞といえば、通常のドラムセットを使わず、足元に並べた大型の空き缶(業務用の一斗缶やトマト缶)、鍋のフタ、タンバリンなどを手やバチで打ち鳴らす独自のパーカッションスタイルです。この奇抜な楽器構成は、単なるウケ狙いやパフォーマンスではありませんでした。
生い立ちを紐解くと、高校時代からアンダーグラウンドな音楽に傾倒していた石川は、本格的なドラムセットを購入する資金がなかったこと、そしてアパートの狭い部屋や路上で音を鳴らすために「ゴミ捨て場に落ちていた空き缶を拾って叩いてみた」ことが始まりでした。金属缶のサイズや叩く角度、中に入れる吸音材の工夫によって、既成のドラムには出せない乾いた温かみのある倍音が生み出されます。このDIY精神こそが、のちに「たま」の素朴でありながらどこか異界めいた音響空間を決定づけることになりました。
私生活においては、一般女性と結婚しており、夫婦仲の良さは長年のファンの間でも知られています。華やかな芸能界の派手な暮らしとは無縁で、古着を愛し、散歩を愛し、自宅で妻とともに穏やかな日常を慈しむ姿が、過去のエッセイやSNSの断片からも伝わってきます。妻は石川の風変わりな表現活動を深く理解し、精神的な支柱として支え続けてきました。石川が何十年もの間、世間の流行や拝金主義に惑わされず、ピュアな表現者であり続けられる背景には、この家庭における心理的安全性と健全な生活基盤が存在しています。