『天城越え』の歌詞において、リスナーに最も強い衝撃を与えるのが、サビの直前で絞り出すように放たれる「誰かに盗られるくらいなら あなたを殺してもいいですか」という強烈なフレーズです。初聴時には背筋が凍るような戦慄を覚えるこの言葉ですが、天城越えの歌詞の意味を深く掘り下げていくと、単なる刃傷沙汰やストーカー的な怨念の歌ではないことが分かります。
この物語の根底にあるのは、世間から決して許されることのない不倫や略奪愛という破滅の構図です。連れ添う相手には家庭や別の本命が存在し、どれほど深く愛し合っていても、日常に戻れば相手は「誰か」のもとへ帰ってしまう。その現実を前にした主人公の女性は、激しい嫉妬と孤独に苛まれ、精神の極限状態へと追い詰められていきます。
歌詞考察において決定的なのは、この問いかけが「あなたを刺して逃げる」という一方的な加害ではなく、「あなたを道連れにして自分も命を絶つ」という心中(情死)の合図である点です。他人の手に渡り、生ぬるい嘘を重ねながら生き続けるくらいなら、自分たちの愛が最も燃え上がっている瞬間に永遠の終止符を打ちたい。天城越えの歌詞が怖い理由は、グロテスクな暴力性ではなく、愛が純粋すぎて自他を焼き尽くしてしまう「絶対的な独占欲の狂気」がリアルに息づいているからに他なりません。