土俵上の力士たちを陰で支えているのが、公益財団法人日本相撲協会に所属する専任の職人「床山(とこやま)」です。彼らは行司や呼出と同様に各相撲部屋に所属し、力士の髪を結い上げる専門技術を代々継承しています。
支度部屋の鏡の前で繰り広げられる床山の大銀杏の結い方は、まさに職人芸の極致です。その工程は大きく以下の手順で進められます。
- 毛髪の梳きほぐし:水を含ませながら「荒櫛(あらぐし)」で髪全体の絡まりを丁寧に解き、毛流れを整える。
- びん付け油の塗り込み:力士特有の甘いバニラのような芳香を放つ「びん付け油」を手のひらに取り、髪の根元から毛先まで均一に塗り込んで固さと粘りを与える。
- 前かきとビンの張り出し:「前かき」と呼ばれる道具を使い、側頭部の髪(ビン)を左右に大きくふっくらと張り出させる。力士の顔の輪郭に合わせて絶妙なシルエットを構築する。
- 元結による結束:頭頂部で髪を一束に集め、和紙で作られた強靭な「元結(もとゆい)」を巻き付ける。床山は自らの歯で元結の一端をしっかりと噛み締め、両手を使って渾身の力で締め上げる。
- 髷尻の折り返しと銀杏の形成:一束にした毛先を前に倒し、髷尻(まげじり)のアーチを整えながら先端を折り返す。「スキ櫛」の歯先を使って毛先を扇状に左右均等に広げ、ピンと張った大銀杏を完成させる。
ここで重要な役割を果たすのが、びん付け油と元結の使い方です。びん付け油には季節や気温に応じて固さが異なる種類(夏用・冬用)が存在し、床山は気温や力士の髪質を見極めて配合を微調整します。また、元結は水に濡らしても切れにくい特殊な和紙のこよりであり、激しい立ち合いの衝撃や頭同士の衝突でも髷が容易にほどけない強固な結束力を生み出します。