映画監督、俳優、エッセイスト、デザイナー、イラストレーターと、いくつもの顔を持っていた伊丹十三。しかし家庭内において、彼は子どもたちに対してどのような父親だったのだろうか。残されたエッセイや家族の証言によれば、伊丹は家庭内でも徹底した「本物志向」と「観察者」としての姿勢を崩さなかったという。
食卓に並ぶ料理の切り方から、身の回りの雑貨の選定、言葉選びに至るまで、生活のあらゆる要素がディテールへの偏愛で満ちていた。幼少期からそうした父の美意識に日常的に触れていた兄弟にとって、芸術や表現は学ぶものではなく「呼吸するように存在するもの」だったのだ。