髪の毛を生成するために亜鉛が必須ミネラルであることは紛れもない科学的事実です。亜鉛は毛母細胞の分裂を促し、食事から摂ったアミノ酸をケラチンタンパク質へと再合成する酵素の働きを助けます。しかし、「不足が薄毛を招くなら、大量に摂ればより生えるはずだ」という短絡的な思い込みが、重大な落とし穴を生み出します。
体内において、亜鉛と銅は小腸粘膜の上皮細胞で吸収経路を共有しています。亜鉛を一度に大量摂取すると、小腸の細胞内で「メタロチオネイン」という金属結合タンパク質が過剰に産生されます。このメタロチオネインは亜鉛よりも銅と強く結合する性質を持つため、本来吸収されるはずだった銅を捕らえ、便中にそのまま排泄させてしまうのです。
この現象によって引き起こされるのが「亜鉛誘発性銅欠乏症」です。体内の銅が枯渇すると、赤血球のヘモグロビン合成が滞って全身性の貧血に陥るだけでなく、毛髪の結合組織を強化する酵素(リシルオキシダーゼ)の活性が著しく低下します。毛根へ酸素と栄養が届かなくなり、毛包の支持組織が脆くなることで、毛髪が成長期を維持できずに抜け落ちる「休止期脱毛」の引き金を引いてしまいます。