集英社の『週刊ヤングジャンプ』にて2007年から2010年まで連載された岡本倫氏の『ノノノノ』は、トリノ五輪での金メダル獲得という父の狂気的な夢を背負い、非業の死を遂げた双子の兄・悠太に成り代わって男子スキージャンプ界の頂点を目指す少女・野々宮ノノの闘いを描いたスポーツサスペンスです。
本作において「歌」や「リズム」は、単なる日常の鼻歌にとどまらない極めて重層的な意味を持っています。ノノがジャンプ台のスタートゲートに腰掛け、時速90km近い猛スピードでアプローチを滑り降りる直前、彼女の脳内を巡るのは家族との断片的な記憶であり、幼少期に兄・悠太と共に口ずさんだフレーズでした。
ファンの間で「歌詞の元ネタがあるのではないか」と長年考察されてきた作中のつぶやきやリフレインは、実在するJ-POPや童謡の引用ではなく、岡本倫氏が構築した過酷な心理描写のためのオリジナル表現であることが単行本エピソードや関連インタビューから読み取れます。極限の緊張状態において、恐怖心を排除し「兄の肉体と技術を自分自身に降臨させる儀式」として歌が機能していた点こそが、読者の脳裏に強烈な残像を残した理由です。