勢田川の水面に朝霧が残る午前7時過ぎ、河崎の町並みを歩くと、どこか懐かしい薪の燃える匂いが漂ってきます。明治期の土蔵や町家が立ち並ぶ景観に溶け込むwakaya津屋の暖簾をくぐると、まず視界を圧倒するのが、赤々と炎を上げるレンガ造りのかまどです。
熱気溢れる厨房で鉄釜の重い蓋が開けられた瞬間、店内に立ち込める濃厚な米の甘い蒸気。店主が大きな杓文字で手際よく天地を返す銀シャリは、一粒一粒が自立するようにピンと立ち、真珠のように澄んだ輝きを放ちます。このかまど炊きご飯こそ、wakaya津屋が多くの参拝客を魅了する最大の理由です。
家庭用の高機能炊飯器がどれほど進化しても、薪の直火が生み出す毎分数百キロカロリーに及ぶ強烈な対流熱と、鉄釜特有の均一な蓄熱性には敵いません。米の外側を糊化させながら水分を瞬時に閉じ込めるため、噛み締めた瞬間にプチッと弾けるような独特の弾力と、奥深い甘みが口いっぱいに広がります。底の方に薄く作られた「お焦げ」の香ばしさは、現代人が忘れかけていた本物の米の旨味を強烈に呼び覚まします。
古来より「お伊勢参りは早朝の澄んだ空気の中で」と言われてきました。外宮の静寂の中で身を清めた参拝客が、空腹を満たす最初の食事としてこの炊きたてご飯に出会うストーリー性も相まって、wakaya津屋での朝食は単なるグルメを超えた「伊勢参拝の不可欠な儀式」として定着しています。