映画の公開から数年後、北野家の波瀾万丈な日常はテレビドラマ『菊次郎とさき』として連続ドラマ化され、幅広い世代のお茶の間を魅了しました。実話をベースに脚色されたこのホームドラマは、昭和30年代の足立区島根を舞台に、貧しくもたくましく生きる庶民の哀歓を丁寧に描き出しています。
特筆すべきは、歴代キャスト陣による圧倒的なリアリティです。菊次郎役を演じた陣内孝則は、普段の小心でおどおどした佇まいと、酔っ払ったときの狂気じみたコミカルさを絶妙なバランスで体現。対する母・さき役の室井滋は、マシンガンのような下町言葉で家族を叱咤激励する肝っ玉母さんを見事に演じ切りました。
北野武本人が「陣内の親父は、本物の親父よりずっと男前で魅力的すぎる」と冗談めかして評した通り、ドラマ版では昭和の頑固親父が持つ滑稽さと哀愁が強調され、視聴者に深いノスタルジーと笑いを提供しました。家族全員がぶつかり合いながらも絆を紡いでいく描写は、失われつつあった古き良き日本の共同体意識を呼び覚ます契機となりました。