本作の魅力を語る上で欠かせないのが、奇跡的とも言えるキャスティングの妙です。主演を務めた渡辺謙は、当時すでに大河ドラマ『独眼竜政宗』などで国民的俳優としての地位を確立していましたが、本作の残九郎役によって役者としての深みと色気を飛躍的に高めました。第2シリーズ以降は「謙吾」の名義で自らメガホンを取り、監督としても卓越した手腕を発揮。その後の映画『ラスト サムライ』を契機としたハリウッド進出、そして2026年現在に至る国際的トップスターとしての確固たる地位の原点が、この現場に凝縮されていました。
そして作品の心臓部として輝き続けたのが、残九郎の母・麻佐女(まさじょ)を演じた岸田今日子です。名門武家の威厳を保ちながらも、酒と美味いものに目がなく、息子の稼ぎをことごとく豪快な食費に注ぎ込む「食いしん坊の肝っ玉母さん」。朝から熱燗を煽り、鮎の塩焼きや季節の初物を平らげる麻佐女と、それに頭の上がらない残九郎の丁々発止の掛け合いは、劇中で最も愛された名シーンでした。2006年に岸田さんが惜しまれつつ世を去った後も、彼女が吹き込んだ愛嬌と気品は、時代劇史に残る屈指の母親像として語り継がれています。
さらに残九郎とプラトニックかつ濃厚な情愛で結ばれていた深川辰巳芸者・蔦吉を演じた若村麻由美の存在感は圧巻でした。きっぷのいい江戸前の気風と、残九郎を「残三郎さん」と呼ぶ艶やかな眼差し。互いに自立した大人として惹かれ合いながらも、あえて所帯を持たず適度な間合いを保ち続ける関係性は、大人の色香の極みとして視聴者を虜にしました。若村さんはその後も紫綬褒章を受章するなど日本を代表する名女優として活躍を続けており、本作で見せた立ち居振る舞いの美しさは今なお女優陣の規範とされています。これに親友の南町奉行所同心・西尾伝三郎役の益岡徹や、料理屋の女将・おえん役の奈月ひろ子ら実力派が絡み合い、画面の隅々にまで濃厚な人間ドラマが息づいていました。