江戸時代の虎の日本画を鑑賞していて、「どこか仕草や表情が猫に似ている」と感じた経験を持つ人は少なくありません。実はこの感覚、美術史的にも的を射ています。
毛皮からは体毛の質感や模様が分かっても、生きた動物特有の筋肉の躍動、関節の曲がり方、瞳の光彩の変化までは分かりません。そこで絵師たちが観察対象に選んだのが、身近に暮らす「猫」でした。伸びをしたり、前足を舐めたり、獲物を狙って身を屈めたりする愛猫の骨格や動きを徹底的にスケッチし、そのフォルムに虎の毛皮をかぶせるようにして命を吹き込んだのです。
円山応挙の描く虎の足元がどこか丸みを帯びていたり、瞳が愛らしく描かれていたりする背景には、観察眼に優れた絵師たちの知恵と愛嬌あふれる工夫が息づいています。