多くの人が「単なる飛蚊症」と「失明リスクのある網膜剥離」を自覚症状だけで見分けようとしますが、ここには大きな落とし穴があります。なぜなら、網膜剥離の始まりはまさに飛蚊症そのものとして自覚されるからです。
眼球内部を満たす硝子体は、50代から60代を迎えるとゼリー状から液状へと変化し、容積が縮小して網膜から自然に剥がれていきます。これが硝子体剥離症状(後部硝子体剥離)です。この分離自体は白髪やシワと同じ生理的な加齢変化ですが、網膜と硝子体の癒着が強い部位があると、剥がれる際に網膜を無理に引っ張り、網膜に亀裂や穴(網膜裂孔)を生じさせてしまいます。
臨床データ上、最も警戒すべきは急に黒い点が増えたという変化です。「昨日までは2〜3個の糸くずだったのに、急に数十個のススのような黒い粒が視界一面に散らばった」「墨汁を流し込んだような濃い黒い影が漂ってきた」という場合、網膜の血管が破れて硝子体出血を起こしているか、すでに網膜裂孔が形成されている可能性が極めて濃厚です。
さらに、剥がれかけた網膜が刺激されることで暗闇でもピカピカと稲妻のような光が走る「光視症」や、視界の端に黒い影が生じて日ごとにその範囲が中央へ広がってくる感覚がある場合、それは初期の裂孔から液化硝子体が網膜の裏側に入り込み、網膜剥離が本格的に進行している証拠です。網膜剥離が網膜の中心部である黄斑に達すると急激に視力が0.1以下へと低下し、手術で網膜を復位させても歪みや視力低下などの後遺症が残るリスクが跳ね上がります。
まだ網膜が完全に剥がれていない「網膜裂孔」の段階で発見できれば、外来でのレーザー光凝固術(網膜裂孔レーザー手術)により、穴の周囲を焼き固めて剥離への進行を食い止めることが可能です。気になる網膜裂孔レーザー手術費用は、公的医療保険の3割負担適用時でおよそ30,000円〜40,000円前後(検査代・薬剤費別)であり、入院を要する本格的な硝子体手術や強膜バックリング手術(3割負担で約15万〜30万円前後)に比べて身体的・経済的負担を大幅に抑えられます。