今くるよ師匠の代名詞といえば、両手を身体の前で激しく上下させ、派手なフリルやスパンコールの衣装を揺らしながら叫ぶ「どやさ」です。このフレーズの元ネタは、京都や大阪の日常会話で使われる「どうなの?」「どうよ?」を意味する関西の方言にあります。本来は相手の調子を窺ったり、意見を求めたりする何気ない相づちや疑問形の一言に過ぎませんでした。
くるよ師匠の天才的な閃きは、この素朴な方言に独自のイントネーションと身体表現を乗せ、感情の爆発を伴う万能リアクションギャグへと昇華させた点にあります。衣装を揺らし、自らのお腹をポンポンと叩きながら放たれる「どやさ!」は、理屈を超えて劇場の空気を一変させる破壊力を持ちました。そして、いくよ師匠が「何がどやさやねん、大きなお腹して」と絶妙なタイミングでツッコミを入れることで、笑いのサイクルが完成したのです。
現代のジェンダー論やルッキズム(外見至上主義)の観点から振り返っても、二人のアプローチは極めて前衛的でした。体型いじりや容姿の弄られ役になりがちだった女性芸人の立ち位置を、くるよ師匠は自虐に甘んじることなく、むしろ自ら「誰よりも派手でパワフルで愛らしいキャラクター」として全面肯定しました。いくよ師匠の細身で都会的なスタイリングと、くるよ師匠のデコラティブで過剰なゴージャスさ。相反する二つの美意識が舞台上で衝突し、笑いへと変換される演出構造は、緻密に計算されたプロフェッショナリズムの結晶でした。