インターネット上の言説や読者の間で長年語られてきたパブリックイメージのひとつに、「重度の自意識を抱えた永遠の独身貴族」というものがあります。初期から中期にかけてのエッセイにおいて、恋愛に対する過剰な怯えや一人暮らしの孤独がユーモラスに描かれていたためです。
しかし、事実は異なります。穂村弘は50代を迎えた2014年頃に結婚を発表しています。当時、熱心な読者の間では「あのホムホムが結婚した」という驚きとともに祝福の声が広がりました。
結婚後のエッセイでは、妻との生活や家庭内での些細な会話が新たな題材として登場します。しかし、いわゆる「甘い新婚生活の描写」とは一線を画し、他者という異星人と共同生活を送る戸惑いや観察の視線が維持されている点が極めて独特です。関係性を過度に美化せず、他者との距離感を繊細に測り続ける態度は、結婚後も作品の切れ味を失わないどころか、新たな深みをもたらしています。