欧米の筋骨隆々たる巨漢たちがパワーでねじ伏せる中、世界のベンチプレス界において「神」と崇められている日本人がいます。世界選手権で前人未到の20回以上の優勝を誇る児玉大紀選手です。
彼が打ち立てたベンチプレス日本人記録および世界記録は、体重74kg〜83kg級でありながらノーギアで230kg前後、フルギアでは300kg超という規格外の数字です。小柄なアジア人が自身の体重の約3倍ものバーベルをコントロールできる理由は、徹底的に無駄を削ぎ落とした「骨格の連動」にあります。
児玉選手が構築したフォームは、肩甲骨の内転・下制によって胸骨を極限まで突き上げ、足裏からの踏圧を骨盤、脊柱、胸郭へとロスなく伝える独自の生体力学に基づいています。「児玉スペシャル」とも呼ばれるこの技術は、可動域を物理的に短縮させるだけでなく、大胸筋下部と広背筋の筋繊維が最も強い張力を発揮できる角度へバーを誘導する、精密機械のような身体操作です。
2023年以降、国際大会におけるパワーリフティング公式ルールが改定され、「バーベルを下ろした際、肘の深さが肩関節の上面より下に位置しなければならない」というデプス規定が厳格化されました。極端な超ワイドグリップと過度なブリッジによる可動域短縮に規制が入った形ですが、児玉選手をはじめとする日本のトップ選手たちは、技術のベースとなる純粋な出力の底上げによって新基準にも適応し、依然として階級別世界記録のトップに君臨し続けています。