常人には到底理解しがたい「爪を何十年も伸ばし続ける」という行為ですが、その背景にある心理的動機を紐解くと、極めて切実なドラマが浮き彫りになります。単なる目立ちたがりや名誉欲だけで、これほどの不便を何十年も耐え抜くことは不可能です。
現世界記録保持者のダイアナ・アームストロング氏が爪を切るのをやめた理由は、胸を締め付けられるような家族の悲劇でした。1997年、彼女の当時16歳だった愛娘ラティーシャさんが、持病の重度な喘息発作により急逝しました。亡くなる前日、母親であるダイアナ氏の手の爪を美しくマニキュアで彩ってくれたのが、生前のラティーシャさんとの最後の温かい記憶だったのです。
ハフポストや現地メディアの取材に対し、ダイアナ氏は次のように語っています。「娘が最後に私の手に触れ、綺麗にしてくれた思い出を消したくなかった。あの爪を切ることは、娘との最後の繋がりを断ち切るように思えたのです」。以後、25年以上にわたり彼女は爪にハサミを入れることを一切拒み、結果として13メートルを超える記録へと至りました。
一方、インドのシュリダル・チラール氏が爪を伸ばし始めたきっかけは、思春期の強烈な反骨心でした。1952年、当時14歳だった彼は学校で友人とふざけていた際、厳格な教師が大切に伸ばしていた長い爪を誤って折ってしまいました。その教師から「お前たちには爪を伸ばし、破損から守り抜くことがどれほど過酷かも分からないだろう」と激しく怒鳴りつけられたことが、彼の闘争心に火をつけました。「それなら自分が世界で一番長い爪を育てて証明してみせる」という執念が、実に66年もの歳月を動かしたのです。
また、1979年から伸ばし始めたリー・レドモンド氏の場合は、当初は「どこまで切らずにいられるか」という好奇心から始まったものでした。しかし、爪が伸びるにつれてそれが彼女自身の唯一無二のアイデンティティとなり、のちに夫がアルツハイマー型認知症を発症した際も、介護を献身的に行いながら自身の象徴である爪を頑なに守り抜きました。