慣用句の語源一覧やネット上の雑学解説を見渡すと、うだつの由来には実はもうひとつの根強い学説が存在します。それが、日本木造建築の骨組みで棟木(むなぎ)を支える短い垂直の柱「梲(うだつ)」に由来するという説です。
梁(はり)の上に固定され、上から重い屋根材の荷重を一心に受けて押し付けられているこの柱は、構造上それ以上「上に上がることができない」配置になっています。この物理的な制約を、出世できずに押し込められている人間の境遇になぞらえたという見解です。
国語学者や建築史家の間でも長年議論が交わされてきたテーマですが、近年の民俗資料の調査では、防火壁の歴史と富の象徴としての文化的背景が民衆の意識に強く結びついていた事実が浮き彫りになっています。岐阜県美濃市や徳島県脇町に今も残る「うだつの上がる町並み」は、藍商人や和紙商人が競い合って豪壮な卯建を競作した生きた証拠です。単に柱が頭打ちになっているという物理現象以上に、「競合ひしめく商戦で勝ち残り、誇らしげに壁を掲げられる境遇にない」という階級社会のリアルが、言葉の土台に刻み込まれているのです。