北海道から九州に至る全国の低地、河川敷、湿原、ため池の周囲などに広く分布する落葉高木が、カバノキ科ハンノキ属の代表種である「ハンノキ(榛の木)」です。多くの樹木が根腐れを起こして定着できない過湿な泥炭地や泥質土壌でも、樹高15〜20メートルに達する立派な成木へと生長します。
水没しやすい過酷な環境で生き抜くことができる最大の秘密は、根に共生する微生物にあります。ハンノキの根系には「フランキア」と呼ばれる放線菌が共生し、根粒を形成しています。この共生菌が大気中の窒素を固定して植物に栄養分を供給するため、養分の乏しい泥炭湿地でも旺盛に繁殖できます。自然界においては、荒廃した湿潤地を緑化し、後続の森林へと遷移させる「パイオニア植物(先駆樹種)」として、湿地帯の生態系 ハンノキ林はかけがえのない国土保全の役割を果たしています。
一方、木材としての利用史を紐解くと、ハンノキ木材の用途と特徴には特有の性質が見られます。心材と辺材の境界が曖昧で淡い紅白色を帯びた木質は、軽軟で加工性に優れ、乾燥後は狂いが少ないという利点を持ちます。かつては湿気に強い耐水性を活かして水田の稲架木(はさぎ)や杭木、下駄の材料、彫刻材として重宝されました。現代でも鉛筆の軸木や木炭、パルプ用材として工業的に流通しています。