大人のてんかんを紐解く上で、決して避けて通れないのが「症候性てんかん(構造的てんかん)」という概念です。小児期の発症では遺伝的素因や特発性(明らかな脳の異常が見当たらないもの)が多いのに対し、成人が発症するてんかんの約60〜70%は、後天的な脳の損傷に起因する症候性てんかんが占めています。
成人発症において最大のシェアを占めるのが、脳血管障害(脳梗塞、脳出血、くも膜下出血)の後遺症です。日本脳卒中学会などの追跡疫学調査によると、脳血管障害を発症した患者のうち数パーセントから十数パーセントが、急性期を脱した数カ月から数年後に「脳卒中後てんかん」を発症します。脳の血管が詰まったり破れたりすることで神経組織が壊死し、その周囲が瘢痕化(グリオーシス)して異常な電気回路を形成してしまうことが原因です。
さらに、若年・中年層で見落とされがちなのが、過去の交通事故やスポーツ事故による頭部外傷の痕跡です。「昔の軽い脳震盪だから関係ない」と考えていたとしても、数年〜10年以上の歳月を経て、頭蓋骨内側に残された微小な組織損傷がてんかん原性病巣へと変貌する経緯は珍しくありません。加えて、緩徐に進行する良性脳腫瘍や、50代後半以降であれば初期のアルツハイマー病など認知症性疾患の初期兆候として異常放電が引き起こされるケースも確認されています。
そして、これらの潜在的な損傷部位を刺激し、臨界点を超えさせる二大外因こそが「深刻な睡眠不足」と「過労」です。覚醒状態を維持するために疲弊した脳は、神経細胞の同期発火を起こしやすい不安定な状態に陥ります。残業が続き睡眠時間が連日4時間を切るような環境は、脳卒中後の傷跡や外傷跡に対して、電気刺激を与え続けているに等しい暴挙と言わざるを得ません。