確定診断が下された瞬間、患者に突きつけられるのは「治癒率」と「生活の質(QOL)・外見の温存」という重い天秤です。副鼻腔癌は扁平上皮癌が最多ですが、腺様嚢胞癌(ACC)、嗅神経芽細胞腫、悪性黒色腫など多岐にわたる病理組織型が存在し、それぞれ放射線や薬物療法への感受性が大きく異なります。
標準治療の軸となるのは依然として根治切除手術ですが、顔面中央部に位置するため、腫瘍を安全域を含めて切除しようとすると、上顎骨全摘出や眼球内容除去、頭蓋底切除といった侵襲の極めて高い手術が不可避となるケースが歴史的に続いてきました。これに対し、大きなパラダイムシフトをもたらしたのが粒子線治療です。
現在、頭頸部悪性腫瘍に対する副鼻腔がん陽子線治療および重粒子線(炭素イオン線)治療は、切除不能または機能温存を強く希望する局所進行がんに対して公的医療保険が適用されています。従来のX線放射線治療と比較して、腫瘍の深さで急激にエネルギーを放出して止まる物理的特性(ブラッグ・ピーク)を有するため、視神経や脳幹といった極めて重要な近接臓器への余分な被曝をミリ単位で回避し、視力温存や顔面組織の欠損回避を図ることが可能になりました。
また、手術を回避して臓器を温存するアプローチとして、動脈から腫瘍を養う血管へ直接高濃度の抗がん剤(シスプラチン等)を注入しながら同時に放射線を照射する「超選択的動注化学放射線療法(RADPLAT)」を導入する専門病院も存在し、良好な治療成績が報告されています。
ただし、いかなる先進治療であっても無傷とはいきません。闘病記の中で多くの患者が苦悶を吐露するのが、副鼻腔癌抗がん剤の副作用と局所への照射後障害です。強力なプラチナ製剤による重度の吐き気、倦怠感、骨髄抑制(白血球や血小板の激減)はもちろんのこと、照射野に含まれる口腔・鼻腔粘膜の全潰瘍化による激甚な疼痛、味覚障害、唾液分泌の途絶、さらには治療後数か月〜数年を経て生じる骨壊死や視野障害のリスクなど、過酷な代償を伴うのが治療の過酷な現実です。
経済面においても、以前は自費負担で300万円超を要した副鼻腔癌重粒子線治療費用や陽子線治療は、公的医療保険の給付範囲に含まれたことで、高額療養費制度の対象となりました。これにより、一般的な所得層であれば窓口での月額実質負担は10万円前後に抑えられるようになり、経済的ハードルは過去数年間で劇的に低減しています。