前鋸筋のトレーニングに挑戦した人の多くが直面するのが、「脇の下や肋骨のあたりに刺激が入っている感覚が全くない」「腕立て伏せをしても腕や大胸筋、首ばかりが疲れる」という壁です。この「前鋸筋 効かない理由」の背景には、人間の脳が持つエネルギー節約本能と代償動作の存在があります。
デスクワークで前かがみの姿勢が染み付いた身体は、前鋸筋が長期間にわたって休眠状態(筋肉の不活性化)に陥っています。その状態で腕を前に突き出そうとすると、脳は使い慣れているアウターマッスル、すなわち「大胸筋」や「僧帽筋上部」を優先して動員してしまいます。肩をすくめて首を縮めるように腕を押し出したり、背中を単に丸めるだけで肩甲骨自体が肋骨の上を滑っていなかったりするケースがその典型例です。
また、肩甲骨の内側が背中から羽のようにポコッと浮き出る「翼状肩甲(ウイングド・スキャプラ)」を抱えている場合、前鋸筋の神経筋伝達が極度に低下しているサインといえます。この状態のまま高重量のプレス種目を行っても、負荷は肩の関節包やインピンジメントを引き起こす腱板へと逃げてしまい、効果が出ないどころか関節を痛めるリスクすら生じます。感覚を掴むためには、まずは重さや回数を追うのではなく、肘を伸ばしたまま肩甲骨だけを肋骨のカーブに沿って前方に滑らせる「単関節的な分離運動」から脳に再学習させる必要があります。