熊の異常とも言える執着心は、日本の獣害史に刻まれた過去の重大事故でも克明に記録されています。
大正4年(1915年)に北海道で発生した三毛別羆事件では、巨大なヒグマ「穴持たず」が民家を襲撃し、複数の女性や子どもを食害しました。特筆すべきは、最初の犠牲者の遺体を奪い返そうと集まった村人たちの行動に対し、熊が「自分の獲物を奪われた」と激高し、さらなる惨劇を引き起こした点です。熊は一度手に入れた獲物に対する権利意識を絶対に譲りません。
1970年の福岡大ワンゲル部ヒグマ事件も、この執着心が引き金となった悲劇です。日高山脈を縦走中だった学生たちのテントから荷物(食料)を奪ったヒグマに対し、学生側がそれを取り戻したことで熊の敵対スイッチが入りました。熊は执拗にパーティーを追尾し、結果として3名が命を落とす事態に発展しました。熊に触られた物や一度奪われた荷物は決して奪還してはならないという教訓は、この痛ましい犠牲から導き出された鉄則です。