焼き台の前に立つシェフの視線は鋭い。火柱を上げるのではなく、炭の爆ぜる音と微かな香気で焼き加減を測る。使われるのは、遠赤外線の照射率が高く、均一な高熱を維持できる最高級の紀州備長炭だ。表面を瞬時に焼き固めて肉汁の流出を防ぎながら、内部へはじっくりと熱の伝導を進めていく。
「外は香ばしくカリッと、内部は艶やかなローズピンク」。出来上がった肉から立ち上る炭香は、嗅覚をダイレクトに揺さぶる。歯を入れた瞬間にあふれ出す濃密な肉汁。赤身が持つ深いコクと、上質な脂が引き起こす甘みのシンフォニー。完璧な火入れは、素材の持つポテンシャルを最大値まで引き上げる魔法だ。