肩関節は人体の関節の中で最も可動域が広い反面、構造的には「ゴルフボールがティーの上に乗っている」ように非常に不安定だ。この関節をフチから支えるゴムパッキンのような役目を果たしているのが関節唇である。1938年にイギリスの外科医であるアーサー・バンカートがこの損傷病態を体系化して以来、肩関節外傷における最大の難敵として知られてきた。
初回の脱臼で関節唇が骨から剥がれ落ちると、肩関節の「ブレーキ機能」が消失する。これにより、腕を後ろに引く・外側に開く(外旋・外転)といった動作のたびに上腕骨頭が前方に滑り出し、反復性肩関節脱臼へと進行してしまうのだ。バンカート損傷の根本的な原因を理解することは、再脱臼の負のスパイラルを断ち切る第一歩となる。