名曲『ファイト!』の原点は、1979年から1987年にかけて放送され、伝説的な聴取率を叩き出していたラジオ番組『中島みゆきのオールナイトニッポン』(ニッポン放送系)のスタジオに眠っています。番組内で中島みゆきは、軽妙洒脱な語り口で爆笑を誘う一方、リスナーから届く人生の苦悩や葛藤を綴ったハガキに対しては、真摯に言葉を選びながら向き合っていました。
歌詞の元ネタについて、当時の特番インタビューや音楽関係者の証言によると、決定打となったのはある中卒の少女から寄せられた1通の手紙でした。高校へ進学せず集団就職などで社会に出た少女は、同世代の高校生たちが制服を着て楽しげに集う姿を見るたび、理不尽な劣等感や社会の冷たい視線に晒されていました。手紙には、勤務先で理不尽な学歴差別や偏見を受け、「私だって働いて生きているのに、なぜこんな風に笑われなければいけないのか」という張り裂けんばかりの慟哭が綴られていたといいます。
さらに歌詞の第1連と第2連には、中島みゆき自身が公の場や雑誌の対談で述懐している通り、番組に寄せられた複数の実話や、自身が街中で目撃した残酷な人間模様が生々しく投影されています。
「あたし男だったらよかったのにな」と呟いた親友の溜め息、駅の階段で転んだ見知らぬ子どもを咄嗟にかばうどころか無視して通り過ぎる群衆の無関心――。
これらの断片は単なるフィクションの情景描写ではなく、当時の日本社会の片隅で確かに起きていたリアルな生活者の声でした。届いたハガキを前に数日間考え込み、ラジオの電波越しに安易な慰めの言葉をかけることを拒んだ中島みゆきは、その回答を手紙の返信としてではなく、自らの音楽という祈りへと昇華させたのです。