『犬神家の一族』の代名詞ともいえるのが、ビルマ戦線で顔に重傷を負い、異様な白いゴムマスクを被って復帰した犬神佐清(スケキヨ)です。しかし、この役柄の本質は「単なる怪物的なビジュアル」にとどまりません。佐清と、彼に復讐心を燃やす異母兄弟・青沼静馬という「光と影の二役」を演じ分けなければならない、極めて難度の高い役どころなのです。
1976年版で佐清を演じたあおい輝彦は、当時アイドル的な人気を博していた爽やかなイメージを完全に覆し、戦場で心身ともに引き裂かれた青年の悲哀を見事に体現しました。当時の特番インタビューや自著・手記で語られた『ゴムマスクの中は息が詰まるほどの熱気と孤独感があり、視界も極端に狭い中で、首のわずかな傾きや視線の配り方だけで絶望を表現しなければならなかった』という述懐は、現場の過酷さを物語っています。名優として確固たる地位を築いたあおい輝彦は、現在も舞台や朗読、音楽活動を通じて凛とした存在感を放ち続けています。
2006年の映画版で佐清・静馬を演じたのは歌舞伎界のトップランナーである尾上菊之助です。母である富司純子(松子役)との「実の親子共演」としても大きな注目を集めました。菊之助が見せた歌舞伎の様式美に通じる無駄のない所作と、素顔に戻った際の痛切な表情のコントラストは、映画ファンの間で今なお語り草となっています。歌舞伎界の重鎮として八代目尾上菊五郎襲名を控える現在も、その圧倒的な身体表現力で舞台芸術を牽引しています。
さらに、2026年のNHKドラマ版で佐清を演じた金子ノブアキは、ミュージシャン出身ならではの鋭利なリズム感と生々しい狂気を融合させました。戦争という過酷な現実によって精神を破壊された男のリアリズムを冷徹に描き出し、SNS上でも「これまでのスケキヨの中で最も戦争の傷痕をリアルに感じさせる」「マスク越しでも伝わる目の演技が圧巻」と絶賛を浴びました。