給食のチリコンカン再現レシピにおいて、最大の関門となるのが「本場テックスメックス(テキサス風メキシコ料理)との混同」です。本場のチリコンカルネは牛肉やキドニービーンズ(赤いんげん豆)をチリペッパーやクミン、オレガノといった刺激的なスパイスで煮込む料理ですが、日本の学校給食におけるそれは、まったく異なる進化を遂げた「和洋折衷の煮込み料理」と言えます。
子どもたちの舌に合わせて刺激物を極限まで抑えつつ、白米やパンが進む濃厚なうま味を引き出す。その中核を担っているのが、現場で長年継承されている3大隠し味の存在です。
第1の隠し味は、ウスターソースと中濃ソースのブレンドです。トマト缶単体ではどうしても角の立つ酸味が前面に出てしまいますが、醸造酢、野菜果実ペースト、各種香辛料が熟成されたソースを加えることで、複雑なアミノ酸のうま味と自然なとろみが瞬時に加わります。給食センターの大量調理現場を取材すると、トマトケチャップに対して約3分の1から4分の1の割合でソースを配合しているケースが目立ちます。
第2の隠し味は、すりおろしりんご(または100%りんごジュース・リンゴジャム)です。小学校低学年でもペロリと食べられる自然な甘味を生み出し、豚肉の獣臭さをマスキングしてフルーティーな後味を残します。砂糖だけで甘味をつけると重たく平坦な味になりがちですが、リンゴ由来の果糖とペクチンがソース全体をまろやかにまとめ上げます。
そして第3の隠し味が、微量のしょうゆと赤味噌(または合わせ味噌)です。発酵調味料特有のグルタミン酸が、肉汁と大豆のタンパク質を強固に結びつけ、「どこか懐かしく、ご飯にもパンにも合う」独特の親しみやすさを生み出す原動力となっています。