日本で広く知られている「ラ・クカラーチャ」は、青空やサボテン、陽気なメキシコの風景を想起させる明るい楽曲として定着しています。しかし、タイトルの「La Cucaracha(ラ・クカラーチャ)」はスペイン語で害虫の「ゴキブリ」そのものを意味する単語です。
なぜ不快害虫の代表格である昆虫の名前が、国境を越えて歌い継がれるスタンダードナンバーの冠となったのでしょうか。そのルーツを辿ると、15世紀末のスペイン再征服(レコンキスタ)時代やムーア人追放令の時代にまで遡る古謡の断片に行き当たります。当時から市井の人々は、権力者への鬱屈した不満や過酷な身の回りの現実を、踏まれても死なない「ゴキブリ」に仮託して歌い飛ばしてきました。
この古くから伝わるメロディと構造がメキシコへ渡り、20世紀初頭の大混乱期に決定的な変貌を遂げることになります。虐げられた農民や前線の兵士たちが自らの境遇を重ね合わせ、生命力の象徴として「ゴキブリ」を掲げたことが、この楽曲が不朽の生命力を得た最大の契機でした。